2015/09/21 10:43


ひまわりが、再び見頃を迎えました。ひまわりは、芽を出してからおよそ二ヶ月で開花します。見頃は短く、咲いてから二週間ほどの間、花を楽しむ事が出来ます。8月末の台風で一度は全滅かと思われましたが、一部遅くに蒔いた畑で、先週からひまわりが咲き誇っています。

愛慕の花言葉を持つひまわりですが、漢字で書くと向日葵の字の通り、つぼみの頃はお日様の方向を向いて回るのだとか。開花した長崎鼻の向日葵は、皆、東を向いています。花も首が据わって開花してしまうと、向きは変わらないようです。一度咲いたら同じ方向を向き続ける潔さ。見習いたいところです。

140万本の向日葵は、一斉に咲き始めるのではなく、場所ごとに種を蒔く時期を少しずつずらしています。7月の海の日を過ぎた頃から、シルバーウィークまで、ゆっくりとお楽しみ頂けます。見頃を終えたひまわりは、種を結びます。長崎鼻ではひまわりの種をとって搾油をしているため、しばらくは首を垂れたひまわりを放っておく必要があります。その間に、種が徐々に熟して、油をたっぷりと含むようになります。頭を垂れて、がくが黄色っぽくなってきたら、刈り入れ時です。

さて、ひまわり油には、高リノール酸タイプと高オレイン酸タイプがあります。長崎鼻花公園で育てているのは、近年主流となっている高オレイン酸タイプ。オリーブオイルに似た組成で、同じ感覚で使われるだけでなく、ビタミンEも豊富に含まれています。高オレイン酸タイプのひまわり油は、酸化に強く、加熱にも適している油といえ、フランスやドイツでは、多くの家庭で揚げ物油、炒め物油として使われているようです。

オレイン酸、リノール酸とは、何でしょうか。油脂は動物性油脂に多い飽和脂肪酸と、植物油の主成分である不飽和脂肪酸に大別されます。あらゆる細胞の境目を形成する細胞膜は油脂でできていますから、油は生物にとってたいへん重要だといえます。

飽和、不飽和という言葉は、油脂の主成分である脂肪酸部分の二重結合の数によって分けられています。グリセリンに脂肪酸が結合したものが油脂といわれます。飽和脂肪酸は成分中にC(炭素)の二重結合を含みません。不飽和脂肪酸は脂肪酸中に不飽和の炭素結合(二重結合)を含み、C=Cの数と場所によって、オメガ3、オメガ6、オメガ9などの名称で呼ばれます。

オレイン酸は体内でも合成されている一価不飽和脂肪酸の一種です。動脈硬化予防などに効果があるといわれていますが、摂り過ぎにはもちろん要注意です。植物油を加熱調理等で使用する場合、基本の料理油はオレイン酸を多く含むものを使う事が近年の主流になっています。酸化しにくいためでしょう。

動物性脂肪である飽和脂肪酸が、常温で固体であるのに対して、不飽和脂肪酸は、一般的に常温で液体です。そのことから、動物性脂肪を避けて、植物性脂肪を摂りましょうという見解が第二次大戦後の食品市場で大きく唱えられました。体脂肪になりにくい、と今でも信じられている方は多かろうと思います。はたして、本当でしょうか。油脂ですから、食べ過ぎれば体脂肪にはなりますし、肥満の原因になることは間違いないでしょう。少量、適量を、できるだけ人工物を避けて使用するという姿勢が、基本になろうかと思います。

たとえば、オメガ6系の油であるリノール酸については、ある時期は健康によいとされ、摂取が奨励されていました。そのためひまわりにも高リノール酸タイプの品種があります。が、現在では、リノール酸が体内でアレルギーの原因物質に変化するのではないかといったことがいわれています。摂り過ぎはよくないということです。リノール酸は健康志向の人々の間では、できるだけ摂取を控えるべき油との共通認識に達した観があります。

また、オメガ3系の油は、基本的には身体に良いとされてはいるものの、酸化しやすく、加熱にも不向きです。冷暗所で保管し、新鮮なうちに生で食す等、食習慣上の工夫がいる油です。亜麻仁油には薬効があるとの認識は古代からあるようです。翻って考えるなら、薬用であって、常食用ではないともいえます。毎日のように、薬膳を食べるなら別ですが。

体内ではそもそも合成されない、オメガ3系、オメガ6系の油を、食品やサプリメントから意識的に摂る必要が叫ばれ出したのは、なぜでしょうか。近年、一般的な家庭で使われている食用油が、抽出過程で化学薬品を使用しているため、本来であれば含まれていた微量栄養素等の不純物が少なく、また、かつては良質な植物を食べて育っていた牛や豚が、画一的な飼料を与えられて育てられる事で、植物由来の良質な油を、食材として含まなくなってしまっていることなどが考えられると思います。「飽食時代の栄養失調」などといわれますが、ヒトも家畜も無知なままに大量消費社会の犠牲になるなら、同じように流されてしまいます。余談ですが、広葉植物の葉には、オメガ3系のα-リノレン酸が含まれ、草食動物の油脂摂取源の一つとなっているようです。

食用植物油は、各種植物の種子を圧搾して作られていると一般的には思われていますが、安価な食用油の抽出は、ノルマルヘキサン抽出という石油系溶剤を使用した抽出にはじまり、リン酸やシュウ酸による脱ガム工程、苛性ソーダによる脱酸、250℃以上の高温状態にすることで、使用した化学物質等を揮発させるための脱臭などの工程を経て、製品化されます。なるべく人手をかけずに、種子に含まれる油分を効率的に抽出するために考え出された方法ですが、そのような安価な油を利用する事の健康被害に関しては、立証が難しいとはいえ、花粉症やアレルギー、アトピーの増加等の国内事情鑑みるに、眉唾とも言えない状況ではないでしょうか。食事における油分摂取をコントロールすることで、アトピーが治癒に向かった事例などは探せばたくさん出てきます。

また、本来常温で液体である植物油脂を固形化するために行われる水素添加(不飽和脂肪酸のC=C炭素二重結合を解くことで、植物油脂の組成を部分的に動物性脂肪に近づけ、固形化する方法)によって、トランス脂肪酸が生じてしまいます。炭素の二重結合にはシス型とトランス型があり、植物油に存在するのは本来シス型です。しかし、マーガリンやファットスプレッドなど、水素添加を受けた部分水素化油脂には、トランス脂肪酸が生じています。日本では対応が遅れていますが、トランス脂肪酸が米国では原則使用が禁止されるという大ニュースは記憶に新しいことでしょう。トランス脂肪酸が心疾患や認知症を引き起こすらしいことは、少なくとも米国や欧州では常識となりつつあります。

オレイン酸は調理の過程での加熱に強く、酸化しにくい性質があります。また、添加物を加えない圧搾法による新鮮な油は、あまり酸化していない良質な油だといえます。細胞膜が油脂で出来ていること、脳の6割が油だということを考えれば、良質な油を摂る事、また、悪い油を摂らない事の重要性がご理解頂けるかと思います。水と油が混ざらないことからも想像できるように、水溶性の毒物は汗や尿を経由して対外に排出されますが、不溶性の毒物は体内の脂肪に蓄積されてしまいます。そもそも摂取している油が汚れている場合、体内に毒物を蓄積していくことになります。便で多少とも出ていったとしても、間に合わない。成人してからアレルギーやアトピーを患った方が、食生活を変えることで、体調に見違えるような変化があったという話は、一度は聞いた事がありませんか。

種子に含まれている油を、できるだけ人手を掛けずに、効率的に取り出し、かつては贅沢の象徴であったような食用油を、安価なものにした科学技術の発展にも、良い面があったことは事実でしょう。国の経済発展に伴って肉食や高カロリー食が蔓延することは世界的な現象です。しかし、時代は変化しつつあります。食生活の選択、日頃の消費行動の選択に、知識と自分なりのこだわりが持てるだけの豊かな時代です。

農民聖人と名高い二宮尊徳は、一日の仕事をすべて終えた後、こつこつと書物を通した学びに向かいました。しかしながら、孤児となったところを伯父に引き取られた身で、貴重な油を勉学に使うなどということは、伯父の見識からは理解を得られない事でした。伯父の言い分に納得し、一時勉学を中断する少年金次郎ですが、自分の油で灯りをともしたいと、川のほとりを開墾して菜種を育て、自らの勉学のための油を自然からじかに手に入れたと言われています。油は、勤勉さを報いるための自然からの贈り物だといえましょう。ご年配の方の中には、幼い頃、町の油屋さんに菜種の袋を持っていって、一升瓶に注がれた搾り立ての菜種油と交換した記憶をお持ちの方もおられるでしょう。

長崎鼻B・Kネット、(株)油花では、耕作放棄地と化していた14haの畑に、春は菜の花、夏はひまわりを植え付けることで、キャンプ場周辺の景観を美化してきました。また、収穫した種子は、昔ながらの圧搾法による搾油を守っています。このような油を選択することは、一度は見捨てられた荒廃した土地を回復するための事業に、食生活を通して投資することを意味しています。必要以上に油を使いすぎている現状から立ち止まって、食材の選択について、少しだけ考えてみませんか。